臍帯血移植後の回復 ── 「生着が確認されて、やっと時間が動きはじめた」
40代を目前に急性骨髄性白血病(AML)と診断された小宮亮さん(仮名)は、地元の病院で化学療法を受けたのち、臍帯血移植を決断しました。移植自体は成功したものの、その後しばらくは「本当に骨髄が動いてくれるのかという不安が24時間頭から離れなかった」と振り返っています。
生着が確認されたその朝、小宮さんはようやく「時間が動きはじめた」と感じたといいます。入院中は時間が止まったように感じていたものが、数値の改善とともに未来が見え始めた瞬間でした。
「もとの生活に戻る」ではなく「新しい生活を始める」
小宮さんが強調するのは、退院後の心の持ち方です。「移植前の自分に戻ろうとすると苦しい。体力も免疫も完全には元通りにならないし、体が変わったことを受け入れてから、むしろ楽になりました」と話します。主治医から「5年生存率は60〜70%」と告げられたとき、最初はショックを受けたものの、「裏返せば6〜7割は5年後も生きているということ」と捉え直したそうです。
匿名のドナーへの感謝
小宮さんが今もっとも伝えたいのは、臍帯血を提供してくれた赤ちゃんとその家族への感謝だといいます。「顔も名前もわからないけれど、あの命が私の命を繋いでくれた。いつかその子が大きくなったとき、自分の臍帯血が誰かを救ったと知ってほしい」と話します。
日本赤十字社のさい帯血バンクには現在、全国の分娩施設からの提供により数万件の臍帯血が保管されており、白血病をはじめとする血液疾患の患者に活用されています。移植を待つ患者にとって、骨髄ドナーが見つからない場合でも臍帯血は有力な選択肢となります。
今、闘病中の方へ
小宮さんは闘病中の患者や家族に向けてこう語りかけます。「治療中は『なぜ自分が』という気持ちになるのは当然だと思います。でも、白血病は今、移植技術や支持療法の進歩によって、かつてより確実に治せる病気になってきています。一日一日をつなぎながら、生着の知らせを待つ価値は十分あります」。
彼の回復は、医療チームの献身と、見知らぬ誰かの善意と、そして本人の「もとに戻るのではなく前に進む」という覚悟が重なった結果でした。その姿は、同じ病と向き合うすべての人に、静かな希望を伝えています。
参考:日本赤十字社「さい帯血バンク 患者・ドナーの声」(2026年)
