「治す医療」と「支える医療」は車の両輪

白血病の治療と聞くと、多くの人が「化学療法」「骨髄移植」を思い浮かべます。しかし医療の目標は「がんを消すこと」だけではありません。治療中・治療後を通じて、患者が「その人らしく生きること」を支える医療、それが緩和ケアです。かつて「緩和ケア=末期がんの患者が受けるもの」というイメージがありましたが、現代では診断直後から治療と並行して行われるものとされています。


白血病患者に特有のQOL課題

白血病患者は、他のがん種と異なる特有のQOL(生活の質)課題を抱えています。

  • 長期入院:化学療法や骨髄移植のために数ヶ月に及ぶ入院が必要になることがある
  • 感染リスク:免疫抑制状態が続くため、外出・外食・面会が制限される
  • 倦怠感・疼痛:治療薬の副作用による著しい体力低下
  • 心理的苦痛:「再発するのでは」という不安・抑うつ・PTSDの傾向
  • 孤立感:長期入院による社会的孤立、仕事・学業・育児の中断
  • 将来への不安:妊孕性(妊娠する能力)の喪失、晩期合併症への懸念

研究で示された「統合緩和ケア」の効果 ── AML患者160人の臨床試験

進行AML(急性骨髄性白血病)患者160人を対象とした研究で、統合緩和ケア(IPC)を早期から行った群は、そうでない群に比べて:

  • 治療開始2週間後から生活の質が著しく向上
  • 気分の落ち込み、不安、PTSDのスコアが有意に低下
  • これらの改善効果は24週間にわたり持続
  • 死亡した患者のうち、緩和ケア介入群では終末期に化学療法を受ける割合が有意に少なく、より穏やかな最期につながった

(出典:CancerIT「緩和ケアで白血病(AML)患者のQOLが向上」より)


緩和ケアで受けられる支援の内容

支援の種類具体的な内容
身体的サポート疼痛・倦怠感・吐き気・口内炎などの症状コントロール
心理的サポート不安・抑うつへの相談・カウンセリング、精神科・心療内科との連携
社会的サポートソーシャルワーカーによる就労支援・経済的支援の相談
スピリチュアルサポート「なぜ自分が…」という実存的苦痛への対話・チャプレン支援
リハビリテーション筋力低下・歩行困難への理学療法・作業療法
意思決定支援治療の目標・終末期の希望を医療チームと共有

「緩和ケアを頼む=諦め」ではない

日本ではまだ「緩和ケアを受けると、積極的な治療を諦めたと思われる」という誤解が根強くあります。しかしWHO(世界保健機関)の定義では、緩和ケアは「生命を脅かす病気に直面している患者とその家族のQOLを改善するアプローチ」であり、治療の代替ではなく補完です。厚生労働省の「がん対策推進基本計画」でも、がん診断直後からの緩和ケア提供が推奨されています。


出典・参考情報

  • CancerIT「緩和ケアで白血病(AML)患者のQOLが向上」:cancerit.jp
  • Journal of Palliative Medicine 2024「緩和ケアの臨床家が知っておくべき急性骨髄性白血病に関する10のこと」:note.com
  • 日本血液学会「造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版)」:jshem.or.jp

Harryからひとこと

妻の治療中、病院のソーシャルワーカーさんや看護師さんがどれほど心の支えになってくれたか、今でも忘れられません。「がんを治すこと」と「苦しみを和らげること」は矛盾しない──それをもっと早く知っていれば、と思うこともあります。このサイトを読んでくれている患者さんや家族の方へ:緩和ケアチームへの相談は「弱さ」ではなく「賢さ」です。ぜひ遠慮なく声をあげてください。

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